06/18(月) 壷井・林デュオ@大泉学園 in F

06/18(月) 壷井・林デュオ@大泉学園 in F に行って来ました。セットは以下、

1st Set:
01. Left Window (壷井彰久作曲、約12分)
02. Spirit of the Forest (林正樹作曲、約11分)
03. Gadget (壷井彰久作曲、約10分)
04. ROBOTMAHN (林正樹作曲、新曲:2回目、約10分)

約53分

2nd Set:
05. Seventeen (壷井彰久作曲、約10分)
06. なごりの雪 (林正樹作曲、約9分)
07. Under the Red Ground (壷井彰久作曲、約4分)
08. ジャパメンコ (林正樹作曲、約11分)

Encore:
08. First Greeting (壷井彰久作曲、約7分)

約61分

壷井・林デュオ:
壷井彰久(vn)
林正樹(pf)



遂に実現!夢の初顔合わせ、初共演にして純粋なお二人のデュオ、これ程近いところで長く活動を続け、お二人ともそれそれのフィールドで実績も積み、かつ非常に高く評価されており、お二人のそれぞれの活動を知るものなら誰しも納得するであろう抜群によい音楽的相性の筈なのに、今まで顔すら合わせたことがないという奇跡的ニアミスが続いていたのも、本日のこの絶妙のタイミング、最高の形となる純粋なお二人のみのデュオでの実現を音楽の神様が待っていた為と思えるほど。

でも、遂に実現したのです!!冒頭、先ずはお互いのご挨拶から、「どうも、はじめまして壷井です」と壷井さん、「こちらこそはじめまして林です」と林さん、当日のリハやってた筈なのに(笑)、そして運命の一曲目は「Left Window」、もう初顔合わせの一曲目とはとても思えない阿吽の呼吸で冒頭のテーマ合わせから完璧を越えた完璧な演奏!林さんが絶妙のピアノソロを取れば、壷井さんが絶妙のディレイをかけて一人ヴァイオリン部隊で重厚に支え、壷井さんがこれまた絶妙のソロを取れば、林さんがポリリズミックにアプストラクトなピアノ伴奏を加えて壷井さんのソロを引き立てる。御二人に見えている楽相のビジョンが完全に共有され、お互いのアプローチを120%活かしたコントリビューションを伴なって織り成される至高の演奏がこの壷井さんの傑作曲「Left Window」の楽相上で展開されるとき、聴く者全てに至福をもたらし、生ある歓びを心の底より実感させて下さいます。ポジティヴパワー爆発のお二人が相乗効果を持って奏でるからこそのこの一時、堪能させていただきました。

続いては林さんの傑作曲「Spirit of the Forest」、冒頭林さんのリリカルながらどこまでも柔らかい極上のタッチによる音の雫に、壷井さんは風音のエフェクトを巧みに盛り込み、風と森の精との語らいとじゃれ合いを映像的にものの見事に表現する。何処までも何処までも深く、柔らかな荘重さを伴なって語られ、写実されていく美しき至極の音楽的映像表現、究極の音楽的精神表現、聴く者の心はただただひたすらに癒されていく、まるでこのデュオの演奏が森林浴の有効成分であるフィトンチンを大放出しているかのよう、至福とはまさにこの瞬間を指す為の言葉として生み出された印象さえ受ける。

3曲目は何と「Gadget」! 壷井さんと鬼怒さんのデュオ ERA 史上最も難しい曲の印象を受けるこの曲をここで持って来るとは!しかも、事前に楽譜を送り合うことなく、お互いに当日に持って来るという状況の中、これは鬼ですね。ERA 2nd レコ発ライヴの際、ゲストで招いた太田さんに演奏させ、ものの見事に間違って演奏し直した「Gadget」ですからね、純粋 ERA でも過去に2度ほど演奏が途中でストップし、合計3度再演奏を行った輝く再演奏堂々トップのこの曲ですからね。林さんも珍しく最後の悪あがきのように演奏前に楽譜を頭の中でさらっている様子が見て取れました。そして演奏開始、我が耳、我が目を疑うばかりに、完璧にお二人の形で完奏でした。お見事!それもただ無難にさらったと言う訳でもなく、音楽的にも深く至高の演奏に昇華されていた辺り、まさに感服です。

4曲目前半最後に持ってきたのは、またまた驚きの「ROBOTMAHN」、これ恐らく林さんとしても2度目の演奏です。先日の林正樹カルテット "STEWMAHN" にて初演された近未来SF的超絶曲!これ林さんのピアノリフに伴なう演奏が何か機械的な感じがあるとトンでもないものに成るなと思っていた矢先も矢先、最高のパートナーとなるであろう壷井さんとのデュオでの演奏のために、持っていらっしゃった林さん、本当に初めましてなのですかと疑いたくなります。林さん自身も「この曲は STEWMAHN というユニットで演奏するために 5/27 に書いた(ちなみに STEWMAHN での初演は 5/29)新曲で、STEWMAHN 以外では演奏することはないと思っていたんですが、壷井さんと演奏したら面白くなるかなと思って持ってきました」とおっしゃってました。その期待に見事に応える壷井さんの金属的なヴァイオリンフレーズが火を噴き、途中のソロも目を疑うばかりの超絶ソロを、まさに弾き倒してました。素晴らしいっ!!手塚治虫原作・浦沢直樹リメイクの「PLUTO」の音楽としてこれ以上にピッタリ嵌る音楽はないと思います。全然話しは無いようですが、「PLUTO」アニメ化の際には、この壷井・林デュオでの「ROBOTMAHN」をテーマ曲に採用していただきたいところです。と言う訳で、第一部、前半が終了です。


休憩時間を挟んで第二部、先ずは壷井さんの曲「曲と言うのもおこがましいですが、ERA の 1st に収録されていた Seventeen を」という事で懐かしの「Seventeen」から、林さんが「どうしてタイトルが Seventeen なのですか?」とツッコミ、恐らく変拍子好きの林さんのことですから、17拍子の Seventeen と言う曲をご自分がいつか書こうと思っていたからじゃないかなという気がします。壷井さんの答えは「いや、大した意味は無いんですが、この曲を書いた時、テレビを見てたら少年犯罪が話題になっていて、そこから取って "Seventeen" にしました」とのこと。壷井さんが一挙に暗黒色をまとって歪ませたヴァイオリンフレーズをその場で多重ループ化にしていき、林さんは呼応するように暗黒ピアノフレーズを巧みに壷井さんのループに絡ませていきます。このお二人、その織り成す音楽をちょっと聴くと癒しのメジャーコードを主に使用する印象を受けてしまいますが、実際はそう言う低いレベル/手法に留まっている訳ではなく、曲相/楽相を大切にし、曲自体と演奏者としての自分が最も活き、かつ同時に聴き手に最もよく伝わるであろう表現を瞬間の中で選び取るバランス感覚/瞬発力に長けた表現者であり、その結果として極々自然に聴き手が”癒し”を実感する訳で、その背景が無い手法だけメジャーコード多用の”ファミレス”音楽とは一線を画するどころか、雲泥の差があるのですよね。そういう意味で、お二人共に明るい癒しの曲と同様に暗い暗黒色の曲も非常に価値ある素晴らしい曲、そして演奏なのです。改めてこの「Seventeen」のこのデュオによる演奏でそのことを深く実感しました。

続いては林さんの「なごりの雪」、楽譜にタイトル修正の跡があったことから仮タイトルの話題になり、お二人に共通の近しいミュージシャンである鬼怒無月さんや鳥越啓介さん、はたまた一噌幸弘さんの話題も上りつつ、お二人のやり取りも非常にいい形に言葉もキャッチボールし出します。演奏に入ると、またまた素晴らしい呼吸と音楽的映像ビジョンがしっかり共有できている見事な演奏、林さんが深々と降り積もる雪をイメージしたテーマを絶妙の柔らかいタッチで描き、壷井さんのやはり柔らかいヴァイオリンフレーズが時に大地のように林さんの降らせる雪を受け止め、時に優しい風をなびかせて空間にたゆたわせる、何処までも続いて行く永遠のイメージも重ね合わせながら見事に描かれた「なごりの雪」、素晴らしい演奏でした。演奏後に壷井さんから「いやー、素晴らしく美しい曲ですね、倣います、倣いますってのもヘンですね、パクリます(笑)」という林さんの曲に対する絶賛のお言葉も出ました。

そして後半三曲目は壷井さんのこれまた傑作曲「Under the Red Ground」、演奏前に、お互いに昨今多くなった音楽系大学出身じゃ無いミュージシャンであること、そして何と偶然にもお二人とも全く同じ携帯電話の機種、色であったこと等の共通点が語られ、そして絶妙のタイミングで壷井さんの携帯に着信、電話に出ると「あ、どうも、今、ライヴの途中でして、そろそろ次の曲を演奏しましょうか」と林さんと携帯電話を使って絶妙の仕込み的やり取り、勿論お二人得意のアドリヴです。林さんの美しく神々しいピアノ導入から入り、そこに更に美しいヴェールを纏わせるように壷井さんの情緒的グリッサンドを巧みに加えたメインフレーズが被ってくる。いつもにも増してカッコよい導入を受け林さんのソロへ、これがまた楽曲の良さを120%受け止めた溜息の出るような美しいピアノソロを展開する、空かさず壷井さんがストリングスアレンジを加えるようにヴァイオリンにてサポート伴奏、続いてピアノソロの美しさを引継いだような、またまたカッコよいヴァイオリンソロ、今度は林さんがリリカルにサポート伴奏、この至極の美しさはそれ自体大きな罪ですね。その美しき印象を観客の心の中で増幅させる為か、いつもより短めに演奏を切上げる。演奏後に壷井さんが「いやあ、いい曲ですねぇ、ピアノを加えて演奏したのは二度目かな?いい曲でした」に林さんが「良い曲ですねぇ」、「(貴方のピアノが良いのですよ)コンチクショウメ(笑)」と壷井さんまたまた絶賛。

本編最後に持ってきたのは林さんの大傑作曲にして超難曲「ジャパメンコ」、今まで数々の共演者を泣かせてきたこの難曲を初めましてで当日楽譜持ち込み、殆んど初見で対応させたのは、サックスの田中邦和さんに序で壷井さんが二人目じゃないでしょうか。行き成り林さんのテーマから導入するもこれまたかなりアグレッシヴに変奏、壷井さんも負けじと切り込む、もうお二人のユニゾンの情熱的なカッコ良さは半端ではない、先ずは壷井さんが先行してソロを取る。これがまた史上最高速にかつ情熱大噴火で奏でるヴァイオリンソロ!これには驚きと歓びの表情を浮かべつつ、負けじとピアノソロへ、アブストラクトフレーズも交えながら、これまたトンでもなく素晴らしい情熱的なピアノソロ、連続トリルを林さんが取れば、ものの見事に壷井さんがサポートし、この大奔流とも巨大な台風とも言えそうな未曾有の演奏は、竜虎相打って高みへ遥か高みへと昇っていくようにその凄まじさを加えつつ、巨大化していき、そして大団円!途轍もなくカッコよく切上げる。

万雷の拍手によりアンコール、壷井さんの曲「First Greeting」で柔らかい優しさを携えつつ美しくまとめ上げる。


本ライヴの実現は、発案者であるミカコさん、その提案を受け止め実現の運びを行って下さった in F 店主佐藤さん、そして勿論そのオファーを受け止め最高の表現を織り成して下さった壷井彰久さんと林正樹さん、 in F の厨房を担って下さったユカさん、そして、この現場に集って、この最高のライヴを体験、共有して下さった観客の皆さんのお蔭です、心より深く感謝申し上げます。


このデュオの次回、ちょっと先になってしまいますが終演後に決定しました!!楽しみに in F さんからの正式発表をお待ちいただき、是非とも次回も、または次回は、共に楽しみましょう!!



n.p. ERA「TOTEM」