12/04(月) 一噌幸弘トリオ&太田・翠川・清水トリオ

12/04(月) 一噌幸弘トリオ@西荻窪音や金時 に行って来ました。セットは以下、

1st Set:
01. メジハ (一噌幸弘作曲、鬼怒 eg、一噌 能管、約19分)
02. 上羽[あげは] (一噌幸弘作曲、旧タイトル:即興曲ニ長調、鬼怒 ag、一噌 篠笛、約18分)
03. どじょうの保育園 (一噌幸弘作曲、新曲:童ぶきモノ第4番、鬼怒 ag & 一噌 能管 duo、約6分)
04. メニエール (一噌幸弘作曲、鬼怒 ag、一噌 能管、約8分)

約64分

一噌幸弘トリオ Member:
一噌幸弘(笛,etc.)
鬼怒無月(gt)
(ガットギター[ラミレス]:ag、アコースティックギター[12弦ギター]:12ag、Vanzandt Stratcaster 鬼怒無月 Signature Model:eg)
吉見征樹(tabla,etc.)


流石の一噌幸弘トリオ、開演前からしっかり席は埋まり満席状態。ふと何気なく一噌さんがステージに上り、音をチェックするように能管を吹き出し、焦るでもなく鬼怒さん、吉見さんが位置に付き楽器を準備し、何の前触れもなく阿吽の呼吸で「メジハ」の超絶演奏に突入する。御一人御一人がそれぞれ、音、一音一音に風格が備わっている見事な演奏、その御三方が音を合わせる時、細かい粒子のような音が膨大な数集まって巨大な塊のようなサウンドを形作っているような感覚に捉われる、苛烈な鋭い音は聴く者の肉体を突き破って行く、凄まじい究極的な超絶演奏のあと、荒涼な、寂寥な一陣の風が吹き抜けていく、音楽はかくも厳しくあるものかと嘆じずには要られない。

続いて以前は「即興曲ニ長調:ニチョ」と呼んでいた正式タイトル「上羽[あげは]」、一噌さんはこのトリオにおいては、特に曲のテンポ、始まり、終わり、キメ、一切他の御二人をケアしない、御自分が始めたいように演奏を開始し、思うが侭にソロを取り、ソロを振り、自由にキメを挿入し、閉める。尽きるところは、御三方の演奏技術の極みなのだが、鬼怒さんは向って左サイドから一噌さんを睨みつける様に見つめ、一切視線を外さず音楽的契機を全て読み取ろうとする、同様に向って右手後方から、吉見さんがタブラに手を置いた臨戦態勢から、一噌さんの背中をじっと見つめ、音楽的契機を読み取ろうとする。このスタイルで演奏が成り立つことは、全く持って有り得ない筈なのに、素材は全て超絶技巧を凝らした一噌さんのオリジナルなのに、逆に聴き手側にも悲鳴を上げたくなるような緊張感を強い、それが見事にいい意味での演出となっている、この「上羽[あげは]」もまた素晴らしい演奏でした。

続いて、吉見さんが外れ、一噌・鬼怒デュオによる新曲「どじょうの保育園」、朴訥とし、郷愁を感じさせる楽想は、正に童ぶきモノ、御二人の紡ぐ可愛らしく、美しい音の調べが、心に深く染み入っていく。

一部最後は、入院して御二人にご迷惑をかけた懺悔の気持ちから書かれた曲「メニエール」、鬼怒さん曰く「懺悔だったら、もっとギター弾かなくていいとか、楽だとかの曲にしてくれよ、この曲のどこが懺悔だよ」とのこと、ムッチャ難しい超絶技巧の曲です、勿論。あっという間に過ぎた時間も終わってみれば、第一部から1時間超の凄まじき演奏、益々、この先が楽しみな一噌幸弘トリオです。



その後、太田・翠川・清水トリオ@大泉学園 in F に行って来ました。セットは以下、

2nd Set:
01. 即興1 (約21分)
02. 即興2 (約15分)
03. タコヴィッチ (翠川敬基作曲:Quoted from Dmitrii Shostakovich、約10分)

約52分

Member:
太田惠資(vn,vo)
翠川敬基(vc,vo)
清水一登(pf,vo)


この御三方の初組み合わせ、初演です!これを外す訳にも行きませんし、一噌幸弘トリオも外せない、とすれば結果は必然の西荻窪大泉学園間セット跨ぎハシゴと成る訳です。

当然ながら結果は大正解、御三方の紡ぐ即興は、モチーフのあり方も、相互の補完の仕方も、全てが長大な時間考え尽くされ、悠久の果てに在るべくして辿り着いたかのように自然で、在るがままに美しい、その音の在り様の美しさといったら、もう絶品そのもの、自然に何の抵抗もなく、滝のように涙が頬を伝わって落ちてゆく、約21分間の一瞬の出来事、実感することは、その音に神は降りていた筈だ。余りにも自然でありながら、もう二度と起こりえない奇跡の音の配置、展開、音楽ここに極まれり。

続く即興もまた素晴らしく、暗黒展開、クレズマー調展開、様々に色合いを変えながらの極上の即興演奏でした。

最後を締めるは、Dmitrii Shostakovich のピアノ三重奏曲第2番 ホ短調 op.67 第三楽章からのテーマを引用した「タコヴィッチ」、途中には「スプリング・ソナタ」を始め、様々なフレーズが差し込まれた途轍もなくユニークな演奏、後半には御三方の脅し(?)ヴォイスまで飛び出す驚きの展開、心から楽しかったです。

正に恐ろしきは”天才”清水一登さん、太田さんの M.C. にも「私は天才という言葉は使いたくないのですが、この御方には使わざるを得ません、正に”天才”だと思います、清水一登!」と紹介された清水さん、音の捉え方が、常人とは全く違っており、その抽象化、アプローチ換え、変奏は、ライヴの場でこそ活きる異様な切り口、斬新さを有しています。そんな清水一登さんが、この日は演奏中も見るからに楽しそうで、終演後も何と日本酒を召し上がっておりました。驚くことに、演奏前もしっかりギネスをひっかけていらしたそうで、すっかり翠川さん、太田さんのペースに嵌りつつ、楽しそうにしていらっしゃいました。これは、おU時代とかアレポスを含め清水さんの活動をよくご存知の方ほど驚かれるかと思います。清水さんが「まいったな、壊れ過ぎちゃってましたかね?ダメだったでしょうかね?これから声かからなくなっちゃうんじゃないかと心配です」と仰ってましたが、いや、聴き手からすれば全く持って素晴らしい以外の何ものでもありません。是非また、この”天災”トリオの再現、心待ちにさせていただきます。



n.p. 一噌幸弘「東京ダルマガエル