05/16(日) スズキイチロウ・カルテット@入谷なってるハウス

05/16(日) スズキイチロウ・カルテット@入谷なってるハウス に行ってきました。まずはセットから、

  • 1st Set:

1. Hobo Brazil (スズキイチロウ作曲、小森 ss )
2. I Drift (菊池俊行作曲、小森 cl )
3. Mon Cherie (堀剛作曲、小森 cl )
4. Far East (スズキイチロウ作曲、小森 ss )

約60分

  • 2nd Set:

4. Boo-Ko (スズキイチロウ作曲、小森 ss )
5. Missing (Child) (スズキイチロウ作曲、小森 b-cl )
6. Return (スズキイチロウ作曲、小森 cl )
7. Petit Boy (スズキイチロウ作曲、小森 ss )

約55分


メンバーは、スズキイチロウ(g), 小森慶子(ss, cl, b-cl), 磯部ヒデキ(b), 金子清貴(ds) の4人、個人的には2回目のイチロウQ体験ですが、このカルテットの繊細さと歌心、調和と軽やかな疾走感に完全に魅了されています。スムース系とアバンギャルドに両極端に別れてしまったシーンにポッカリ空いた穴、そんな大きな穴を埋める素晴らしきユニット、それがスズキイチロウ・カルテットという認識を持っています。幅広い音楽的要素をモチーフに、歌心楽曲重視から来る演奏技術的困難さを聴いているこちら側に微塵も感じさせない技術の確かさと恐ろしく高いミュージシャンシップ、曲想を大事に繊細に奏でつつ、個性的表現を譲ることは一切無い凛とした個々の姿勢、しかし4人により紡がれ生み出されるサウンドは歌心たっぷりで、レベルの高いミュージシャンが陥りがちな”押し付け”が全くみられない。そんなスズキイチロウ・カルテットに、2回目にしてすっかりメロメロ( by イチロウさん)です(^^); 本日は、イチロウさんが馴染みのお客さんが多いとのことで、各曲に MC を付けて下さいました。1曲目は「Hobo Brazil」、元々、ボサノバ/サンバ的ブラジリアン・フレーズで書いてらした曲らしく、書いた当時の忙しさから元々は”慌てた感じ”のリズム(7/8 パートあり)になっていたものをアドリブを入れ易いように少々手直ししたそうです。やはり、ボサノバの風に乗った熱いラテンの血と熱情を曲中に強く感じる素晴らしい曲で、聴いていて、眩しい海岸線の太陽光を浴びながら、清々しくも熱い一陣の風に吹かれるような爽やかな心地を感じます、イチロウQの1曲目に相応しい曲ですね。2曲目は、以前にイチロウさんが一緒に演奏されていたベーシスト、菊池俊行さんが書かれた曲とのこと、スローテンポで繊細な響きを大切にした ECM の香り漂う空間系の曲で、ここに奏でられる小森さんの Clarinet による繊細なロングトーンが素晴らしく曲調にマッチしています。恐らく本来は、均質なロングトーンを保ち難い管楽器系での演奏は困難だと思いますし、一般的な Jazz ベッタリの演奏者だと、アドリブと言うエクスキューズの元、曲想、音像を壊して勝手にアレンジしてしまうと思いますが、そこは小森さんのこと、曲想、音像を大事に大切にしつつ、ブレス一つにも神経を尖らせたかのような繊細な演奏をみせてくれます。ホント、驚くばかりですね。続く「Mon Cherie」もイチロウさんでは無く、ベーシスト、堀剛さんの曲で、シャンソン風ジャズナンバー、ふと、最近のクリヤマコトさんの指向にも似た方向性を想起させる曲で、アンニュイで有りながら、程好く効いたエスプリが魅力的、やはりイチロウQでの演奏に素晴らしくマッチしている気がします。イチロウさんと小森さんによると、実際にこの曲を書かれた堀剛さんを知っていると「あの人がこんな曲を...」と、ここは笑えるところらしいです。前半最後を飾るのは、勿論「Far East」、私個人としては、黒田・小森デュオに始まり、イチロウQ、GYRO と3バンドで聴いていますが、ホント、名曲です!オリエンタルなムード漂い、郷愁を喚起させ、心の歩みを辿ると共に果てなき人類の古からの歩みを想起させる楽曲で、小森さんの温かみ溢れ、それでいながらシャープな切れ味も感じさせる ss によるヴォイスが堪りません。そして勿論、イチロウさんのリリカルな泣きのフレーズと、クレッシェンドさせて何処までも激しく燃え上がる熱いパッセージがまた堪らないのですね。その2人の上モノが激しく交錯する中、バンドサウンド全体を Scott Lafaro を彷彿とさせる柔らかく繊細なアップライト・ベースでまとめ上げる磯部さん、煌びやかに映える瑞々しいリズムを叩き出す金子さん、ホント、素晴らし過ぎるくらい素晴らしいイチロウQの面々による名曲「Far East」の歌心溢れる演奏、最高です!

2部は、イチロウさんも仰ってましたが、オーネット・コールマンを想起させる「Boo-Ko」、タイトルはご本人の姪っ子さんからとったとのこと。全員で、拡散するように個々に奏で、行き成り集合して、テーマの奔流を作り、また拡散する。離散と集合を繰り返しながら、空間を思いっきり使った素晴らしきフリージャズが奏でられます。これを聴くと、フリージャズとは、音楽が本来持つ、演奏者個々のバンドサウンドに対する全ての音楽表現の責任を全うさせた結果だという極当たり前で有りながら、久しく忘れてしまった定義を改めて思い起こさせてくれます。イチロウQのメンバーの皆さんの自ら由とする音を提示し、ぶつけ、寄り添い、合わせる結果としての瑞々しくも美しいバンドサウンドを堪能させてくれます。続くは「Missing(Child)」、元々は GYRO の前身となる高岡・イチロウ・デュオを想定して、イチロウさんが書いた曲とのことで、複雑なコード進行を持つ難解な曲ですが、小森さんの b-cl による思慮深く真摯な想いを感じさせるヴォイスと不思議なイチロウさんの響きがミステリアスな音像を形作る素晴らしい曲で、ここでのイチロウさんのギターは、Mike Keneally の「Wooden Smoke」での不思議なコード進行と音使いによるミステリアスな響きと同じ方向性を感じさせますね。2部3曲目は「Return」、近年ご両親を亡くされたイチロウさんがその場で感じた想いを曲にされたとのこと、「人の死とは簡単ではないようで、こんなにも難しい曲になり、バンドメンバーからブーブー言われてます」とイチロウさんが仰るイチロウQで最も演奏が難しい曲、しかし、聴いていると心の奥底からジワッと来るものがあり、まさに愛情と感謝の吐露とも言える溢れ出る想いを留めることが出来ない曲相で、ジャズの曲でこんなに思わず涙をボロボロ出しながら聴き入ってしまう曲って、個人的にはなかなか無いですね。特に、心そのものを温かく、優しく包み込んでくれるかのような小森さんの Clarinet によるパッセージが絶品で、イチロウさんの想いが込められたこの曲を、本当に大切に演奏してくれています。音楽として本来有るべき、曲想を大事に描いた結果の難しさを妥協無く、限り無く美しく描くイチロウQ、本当に素晴らし過ぎですね。ここで、イチロウさんによるメンバーの紹介があり、最も古くからあるギターの大先生の合宿で会って10年来の付き合いである素晴らしいドラマー、金子清貴(ds)、あるドラマーを介して知り合い普段はもっとインサイドのジャズを弾いている繊細で優しい音色のベーシスト、磯部ヒデキ(b)、イチロウさん自身、そのサウンドとテクニックにメロメロとなっている小森慶子(ss, cl, b-cl)、そして、類稀なるメロディセンスを持ち、オリジナリティ溢れる数々の名曲を生み出す素晴らしきソングライターであり、数少ない左利きで、ECM 期の Pat Metheny を彷彿とさせるジャズギタリスト、かつバンドリーダー、スズキイチロウ(g)、この4人の素晴らしき音楽家による本当に素晴らしいバンド、スズキイチロウ・カルテット。最後に演奏される曲は「Petit Boy」、イチロウさんが向島 Petit Rose で、その当時、よく通ってくれて、アメリカに音楽留学に向かった高校生を送り出すために作った曲とのこと。カリプソ風の和やか&爽やかなこの素晴らしい曲で送り出された高校生、きっと素晴らしい音楽家になっていることでしょう!今日も本当に素晴らしい曲と演奏を提供して下さったイチロウQの皆様に感謝と言ったところです。イチロウさんによると、着々とこのメンバーによる録音も進めているとのこと!本当に楽しみでなりません!ちょっとでも興味を持たれた方は是非イチロウさんの HP 上にアップされている音源を聴いてみて下さい、きっと、そのオリジナリティ溢れる素晴らしき音楽に魅了されることでしょう。

また、スズキイチロウ・カルテットは、月一、第3日曜日に入谷なってるハウスで定期的に演奏を行なっています。この素晴らしき音楽と共に過ごせるひととき、Charge 2,000円は、本当に安過ぎです!興味と機会のある方は是非足を運んでこの素晴らしき曲と演奏を堪能してみて下さいませ。


n.p. ERA「TOTEM」
p.s. アメリカに急遽仕事で行くことになり、バタバタしていてアップが遅れ、こちら(San Jose, CA)からの随分遅れた更新となってしまいました。更新を待たれていた方、もしいらっしゃったら、遅くなって申し訳なかったですm(_ _)m