08/28(火) 喜多・向島・会田・翠川・西嶋・黒田@大泉学園 in”F”

08/28(火) 喜多・向島・会田・翠川・西嶋・黒田@大泉学園 in "F" に行ってきました。セットは以下、

1st Set(喜多直毅 Strings Quintet):
01. ミクロコスモス Sz.107〜第6巻 第122番 同時と対立の和音 ( By Bela Bartok:喜多直毅編曲、約12分)
02. ミクロコスモス Sz.107〜第6巻 第147番 行進曲 ( By Bela Bartok:喜多直毅編曲、約13分)
03. ミクロコスモス Sz.107〜第6巻 第129番 交代する三度 ( By Bela Bartok:喜多直毅編曲、約10分)
04. Primavera Porten~a - ブエノスアイレスの春 - (Astor Piazzolla、約4分)
05. ミクロコスモス Sz.107〜第6巻 第153番 ブルガリアのリズムによる舞曲6 ( By Bela Bartok:喜多直毅編曲、約11分)

約58分

2nd Set(喜多直毅 Strings Sextet):
06. 春 〜 (喜多直毅作曲・編曲、約5分)
07. 〜 吹雪 (喜多直毅作曲・編曲、約10分)
08. 泥の川 (喜多直毅作曲・編曲、約13分)
09. 疾走歌 (喜多直毅作曲・編曲、約15分)
10. ホルトノキ (黒田京子作曲・編曲、約14分)

約64分

喜多直毅 Strings Sextet Member:
喜多直毅(vn)
向島ゆり子(vn)
会田桃子(va)
翠川敬基(cv)
西嶋徹(cb)
黒田京子(pf)(2nd Set のみ)



このメンバーの顔ぶれ、壮観ですよね。元はと言えば、今年の 5/7、喜多・黒田・西嶋トリオのライヴの際に翠川敬基さんと会田桃子さんがいらっしゃり、後半に飛び入りして素晴らしい演奏を見せて下さった終演後の打上げ時に起こったお話でして、本日のトリオセッションが喜多さんのリーダーセッションであったことから、この5人にヴァイオリンもヴィオラも弾くことが出来る向島ゆり子さんを加え、喜多さんをリーダーとした弦楽六重奏団でのライヴを行うと言う話が盛り上がり、本日に至った訳です。その際に出ていたのですが、喜多さんがバルトークのミクロコスモスを1,2曲弦楽五重奏にトランスクリプトするということを仰ってらしたのですが、流石に喜多さんの超過密スケジュールの中で、ピアノ曲であるミクロコスモスから態々今回の為に一から起こすのはちょっと無謀じゃないかと思っていたのですが、何と4曲起こしていらっしゃいました、それも全て第6巻から、122番、129番、147番、そしてミクロコスモス153曲中最も難曲中の難曲である最後の153番!

今回のライヴにかけるリーダー喜多直毅さんの並々ならぬ気合は凄まじいものがあり、開演前から少々ピリピリとした緊張の空気が張り詰めます。先ず 1st Set は、弦楽五重奏編成と言うことで黒田さんが外れる形ですが、この時点でももう圧巻、喜多さんが 1st Violin、向島さんが 2nd Violin、会田さんが Viola、翠川さんが Cello、そして西嶋さんが Contrabass、この弦楽五重奏のドリームチームを前にして音を聴く前からすっかり涙目になってしまっている自分がそこにいました。

そして遂に世界初演、弦楽五重奏のドリームチームの音が奏でられました!喜多さんのストリングス・アレンジは、今回初めて聴かせていただいたのですが、その展開やパート毎への振り方、凝りに凝ってます!これ、レギュラーで音を合わせているストリングスクインテットなら分からなくないのですが、今回世界初演、初めの一歩を踏み出すメンバーに対しては余りに過酷過ぎはしないかと、聴き手にすら心配させる程の斬新なアレンジ、アンサンブル、そこは流石にドリームチーム、初回とは思えぬ形に大きな破綻なく纏め上げます、ミクロコスモスだけでも重いのに、この余りに見事なストリングスアレンジを4曲続けてはと言うことで、お客さんに気遣ってピアソラの「ブエノスアイレスの春」を挟み込み、最後に難曲中の難曲、153番を演奏します。「間奏部バカな展開しますが、聴いて下さい」との喜多さんの前振りから演奏に入り、これまた見事なアンサンブル、何と間奏部にはブルースパートを入れ込んできました。ここぞとばかり飛び出す向島さん、ただでさえダイナミックに身体全体を使って弾く向島さんが更にパワーアップ!もう激しい舞のような演奏から繰り出されるアグレッシヴなフレージングには驚きを隠せませんでしたね。喜多さんは終始全体アンサンブルを気にしながらカウントも入れる気合の入りっぷり、演奏も一旦入ると、幽体離脱状態で一心不乱に弾きまくります!会田さんの情感タップリのフレージングも見事!どんな深い経験から生み出されているのかと感じ入るほどの深く激しい激烈激情とも言えそうなヴィオラ表現!翠川さんは、もう燻し銀!様々なテクニックを駆使しつつ、見事に喜多さんの指示と違う手法で、意図を解して表現するその捻くり振りは、もうまさに神仙の域です!そして西嶋さん、全ての喜多さんの要求に応え、かつやはり喜多さんの意図を汲んだ上にそれ以上の見事な表現を加えて返してくる!シーンの誰もが認める若手最高峰のコントラバス奏者は伊達ではありません。初回にして、素晴らしい見事な弦楽五重奏のアンサンブル、この恐ろしく豪華なメンツでは、なかなかスケジュール一つ合わせるのも楽じゃないと思いますが、何とかまた”次回”に繋げていただき、より高み、更なる未曾有の境地、至高の音世界を更に広げていっていただきたいところです。

休憩を挟み、後半は黒田京子さんを加えたピアノ入り弦楽六重奏編成、喜多さんの珠玉のオリジナル曲が見事なストリングスアレンジを施されて、この弦楽六重奏ドリームチームで奏でられていく様はやはり圧巻!「春」〜「吹雪」と繋がるこのところお馴染みなメドレーも、よりダイナミックにかつ繊細に、そして激しく描かれていく、「吹雪」のテーマ部における 1st Violin 喜多さんと 2nd Violin 向島さんの正気の沙汰とは思えないポリリズミックな弾き倒しの主導権争いが火花を散らし、翠川さんが抽象的なフレージングで二人を煽り、会田さんがヴァイオリンとチェロをみごとに橋渡しする。西嶋さんは豊かにたおやかに全てを受け止めるかの如くにアルコを奏で、絶妙のタイミングで黒田さんが煌びやかなピアノパッセージを送り込む、このストリングス・アレンジは一体何?って程に斬新、喜多さんのオリジナル曲の楽想をより具体化させるとこうなるんだろうなと驚きを伴いつつもようやく納得させると、続いて「泥の川」、喜多さんがざっと構成のお浚いをすると、「えーっ、ソロあんの?そうだっけ、聞いてないよー!」と向島さん、翠川さんも初めて譜面を見たかのようなご様子...、喜多さん堪らず「この人達はもう、昨日全部しっかりやったじゃない、もうすっかり忘れてるよぉ」と漏らし、「大丈夫ですか?」と翠川さんに、「もう、バッチリだよ」と翠川さん、更なる喜多さんからの「じゃあ、六つカウント出しますから」に「いいから!」と翠川さん、西嶋さんと目配せをしてものの見事に「泥の川」の導入を飾る。ここも仕掛けかっ!な翠川さん、こりゃリーダーも気が気じゃないですし、丁々発止が MC にまで及ぶとは恐れ入りますね。そして奏でられた演奏は途轍もなく暗黒的な「泥の川」でした、暗く、深く、地の底を這い回り、絶対零度の表現に至るかと思うと突如灼熱のマグマが噴出する、この泥の川は正に地獄に流れる罪人達の血が集まって出来たかのような、狂気と怨念、そして情念が入り混じりつつドロドロと流れる様を思い起こさせ、それを傍らで見つめる我々には無常と言う川が心に流れ出します。

続いて久しぶりの感がある「疾走歌」、いきなり喜多さんのヴァイオリンが飛び出し、徐々に皆さんが合流してきて、先ずは一頻りテーマ演奏、激しい激情の演奏かと思わせつつ、いきなり皆さんがアブストラクトに不協和音を鳴らし出し、ノイジーな空間を現出させ、一切の調和を排除した感さえ漂う無秩序な音世界が広がってゆく、そんな混沌としたカオスを突き破るように彼方から喜多さんのテーマ演奏が姿を現し疾走していく、再び皆さんが合流し、凄まじいストリングスサウンドの奔流となって全てを洗い流す様に駆け抜けていく、すっと空間が開け、西嶋さんの豊かで力強い指弾きソロ、黒田さんのリリカルなパッセージが美しく絡み合う、頃合を見て全員のブリッジを入れ、続いて会田さんの情念渦巻く激しいヴィオラソロ、翠川さんがピチカートで尖った音調を優しく宥める様にサポート、頃合を見て喜多さんが切り込みテーマ演奏へ持っていき、再び激しい奔流となって幕を閉じる。

本日の最後を飾るのは、黒田さんがストリングス・アレンジを行った「ホルトノキ」、喜多さんの描く音世界とは正に対照的な天国の調べ、男女の愛が広がって家族愛となり、更に隣人愛、人類愛、生物愛、地球愛、宇宙愛へと拡大を続け、全てを受け止め全てと繋がってその結果、また新たな音楽的生命が誕生するような柔らかな、たおやかな、生命が生きる喜びに溢れるような素晴らしい音楽、全てを包み込むように余韻を残しつつ幕、感動のエンディングでした。


素晴らしき未曾有の初演!全てが刺激的で、全てが新しい、そんな音楽が誕生する場に立ち会えたことは、無上の喜びです!しかし、この素晴らしき編成ならこの弦楽六重奏のドリームチームでのみ到達し得る更なる素晴らしき彼らの音楽を生み出して下さることでしょう、この編成での次回を楽しみに待たせていただきたいと思います。



n.p. 喜多直毅「VIOHAZARD」