03/11(日) Salle Gaveau@浅草アサヒアートスクエア

03/11(日) Salle Gaveau@浅草アサヒアートスクエア に行ってきました。セットは以下、

1st Set:
01. タイトル未定 (鬼怒無月作曲、新曲:1st未収録、鬼怒 LP、約10分)
02. Art Deco (鬼怒無月作曲、1st未収録、鬼怒 LP、約6分)
03. Nullset (鬼怒無月作曲、鬼怒 LP、約9分)
04. Seven Steps to "Post Tango" (佐藤芳明作曲、鬼怒 LP、約14分)
05. Parade (鬼怒無月作曲、鬼怒 LP、約7分)

約51分

2nd Set:
06. Tingo (佐藤芳明作曲、新曲:1st未収録、鬼怒 LP、約15分)
07. Alloy鬼怒無月作曲、鬼怒 ag、約10分)
08. Pointed Red (鬼怒無月作曲、鬼怒 LP、約10分)
09. Arcos (鬼怒無月作曲、鬼怒 ag、約11分)
10. Crater (鬼怒無月作曲、鬼怒 LP、約14分)

Encore:
11. Calcutta (林正樹作曲、鬼怒 LP、約6分)

約76分

Salle Gaveau Member:
鬼怒無月(gt) ( LP:Bacchus Les Paul Model、ag:ガットギター:新調)
喜多直毅(vn)
佐藤芳明(acc)
鳥越啓介(cb)
林正樹(ep)


遂にやってきました!Salle Gaveau フランス入り前、日本における最終公演@アサヒアートスクエア、ある意味 Salle Gaveau の世界プレビューとも言える本ライヴ、漸くのウィークデイではない日曜公演、空間が広く PA も充実している@アサヒアートスクエアという状況、本日初 Salle Gaveau 体験となった方もきっと多いことでしょう、席も確り埋まり立見も出る盛況具合。奇しくも 86年前の 1921年に Astor Piazzolla の生まれたこの 3月11日のライヴと言うことも、何か運命の巡り合わせを感じさせてくれます、そしてここ数回の Salle Gaveau のライヴは、毎回世界記録更新状態で、常に過去のライヴを上回る充実振りですので、かなりの期待を持って足を運ばせていただきました。

本日の Salle Gaveau、鬼怒無月さんは Bacchus の Les Paul モデルと新調されたと思われる真新しいガットギターで臨むようです。佐藤芳明さんは、ピックアップマイクは中央一本タイプで臨むご様子、最近バータイプ、3本タイプと様々変えてきた中でのこの選択、当然タンブーラマシン2万8千円也!もキチンと前方にマイク向けられ設置してあります。喜多直毅さんは、先週ぐらいにピックアップマイクを新しいのに変えたご様子で、そのサウンドの違いが気になるところ、鳥越啓介さんは相変わらずとてもウッドベースとは思えないエフェクト類が足元にビッシリ、ここからそもそもアグレッシヴ過ぎです!そして林正樹さん、恐らく開場側の制約(アサヒアートスクエアは常設のグランドピアノが無い?)かと思いますが、今回はいつもと違って一昨年11月の@Live Inn ROSA 以来久しぶりにエレピで臨みます。普段からグランドピアノ、アップライトピアノ、エレピは全く違う楽器で、当然演奏アプローチも変わってくると仰る林さんのことですので、その辺の違いもある意味楽しみではあります。

1曲目は前回の@クラシックスに引き続き鬼怒さんのタイトル未定の新曲から、行き成りのこのプログレ要素溢れる曲での幕開けは余りに刺激的、鳥越さんのパーカッシヴなアルコが響き渡る中、鬼怒さんのリフが走り、喜多さんの生々しいバイオリンが空間を切り裂き、見る見るうちに弓の毛がバラけてゆく。ちょっとでも音に触れるだけで、心と身体、魂が奪われてしまうような未だ嘗てこの世に存在せず、この5人がいて初めて生み出される刺激的な奇跡のサウンドが展開してゆく、もう、この冒頭の一曲で、世界が震撼する様を確信させてくれる素晴らしい演奏、究極的アンサンブルの極致。

2曲目は久しぶりの「Art Deco」、1st Album「Alloy」に残念ながら未収録となってしまったが、初期から演奏され、極彩色の幾何学模様を空間に描く、音響的にも美しいこの曲、見事なまでに5人のそれぞれに織り成す音のたゆたいが5者5様に描かれ、まるで五重螺旋のように複雑怪奇な音響世界を構築し、時空を超えた艶やかさと不可思議な退廃感をも携えつつ空間を彩ってゆく、これまたこの5人にして初めて成り立つ奇跡的なバランスによる音楽世界。

3曲目は元々「可愛い曲」という仮タイトルを持っていた「Nullset」、演奏ヴォリュームこそ低く、メインテーマは可愛い装いを有しているが、Salle Gaveau にかかると一聴して分かる捻り効き捲くり、アバンギャルド全開の演奏。静謐に、それでいて内情激しく展開する丁々発止の連続、メンバーの皆さんからも演奏中思わず笑みがこぼれ、聴いているこちら側もワクワクしつつ、笑みを浮かべてしまう素晴らしき演奏、感服します。

4曲目は佐藤芳明さんの傑作大曲「Seven Steps to "Post Tango"」、気品漂う佐藤さんのアコーディオンによる冒頭のメインテーマが狂おしいまでに美しく響き、鳥越さんのパーカッシヴなベースが力強く低音部を支え、林さんの煌びやかなタッチが流麗に気品の高さを引き立たせ、鬼怒さんのワウをかけたギターが音像に厚みを加え、喜多さんの先鋭的なフレージングが狂気感を一手に担う、間奏部の佐藤さんのアコーディオンソロによるテーマ変奏が際立つ、引き摺られるように鬼怒さんと喜多さんも見事なソロで応える、一気呵成に全てを昇華するエンディングへ、高貴なるピアソラへのオマージュとはまさにこの曲と演奏に対するもの、素晴らしい限り。

5曲目第一部最後を締めるは、個人的に Salle Gaveau のテーマ曲とさえ思える「Parade」、しなやかで力強いいつもの鳥越さんのランニングベースにて道の大枠を形取り、林さんの力強いダイナミズム溢れるタッチの鮮烈なフレーズが音像の立体感を鮮やかに生み出し、佐藤さんの分散フレージング伴奏、喜多さんの微分音パッセージがエキセントリックに時空の歪みをも音楽的に表現します、そんな鮮やかに彩られた4者4様の個性的な音によるストリートを、鬼怒さんがレスポールを用いてのメインメロで強烈に個性を放ちつつ行進をするように進んで行く、そんな曲想が個人的には堪りません。特に本日は、間奏部の喜多さんの反則技駒回しベンディングが炸裂する爆裂ソロ、負けじと続く林さんのアブストラクトながら、眩いばかりの強烈な光を放つソロパッセージの2トップによる波状攻撃が狂おしいばかりの切れ味を持ってぶつかり合う、この Salle Gaveau の「Parade」は、Tango の、その先に続く Post Tango の有るべき新たな境地を切り開いているように強く感じられます。


休憩を挟み、第二部冒頭、全体としては6曲目は佐藤さんのタンゴとインド音楽(Hindustani Music)の融合オリジナル曲「Tingo」、3年前の 5/14、大泉学園 in F で行われた壷井・佐藤・立岩セッションでは「何この記号、訳分かんないですね」等、立岩さんの書かれた譜面のターラやラーガの指定等にも戸惑いを見せていた佐藤さんですが、その後、立岩さんのタブラの師匠、吉見征樹さん率いるアキヨシマサキに壷井彰久さんと共に参加し、遂にオリジナル曲で Hindustani Music の語法をここまで用いるようになったことには驚きを隠せませんし、佐藤さんの貪欲に様々な要素を自らの音楽の中に取り入れる姿勢には頭が下がります。そんな「Tingo」、冒頭から佐藤さん、鬼怒さん、喜多さんの飛び出し方、走り出し方が半端ではありません。鳥越さんと林さんがガッチリと築く中低音部の上で、3者それぞれのインドスタイルが真向からぶつかり合うように火花を散らす。ティハイもキッチリ決まって間奏部へ、徐に佐藤さんがステージ前方に設置されているタンブーラマシンを操作し、インド音楽のフレーバーを更に強調させる。そこで安心して、鳥越さんと林さんもアグレッシヴに仕掛けを埋め込み始め、5者による丁々発止の状況に。その後の展開たるや、反則技のオンパレード、各自のソロの際にもそこ彼処で局地戦が展開されつつも、全体としてのサウンドの調和が見事なまでに取られている。この膨大な音楽的情報量は凄まじい限り、素晴らしい演奏でした。

演奏後の MC にて、休憩中にかかっていたアルバムの紹介が入ります。「さっきかかっていたのは、Jim Pepper の "Comin' And Goin'" で "Witchi Tai To" と言う曲が入っていて、聴きたくなって買おうとしたのですが、日本では廃盤になっていて、3万円とか5万円とかのプレミアが付いて売られているのでビックリしたのですが、AMAZON から手に入れて昨日着いたのでかけてました。Jim Pepper の他にも Gary Burton とかジャズ史では評価されないようなミュージシャンが個人的には好きで "Live in Japan" には Sam Brown とか Tony Levin なんかも参加しているんですよね、あ、どうでもいいですね」と演奏に。

7曲目は「Alloy」、1st Album「Alloy」のタイトル曲であり冒頭を飾る Salle Gaveau の看板曲とも言えるこの曲をここで持って来る。鬼怒さんは 1st Set では使用していなかったガットギターに持ち替え始める。新調されたと思われるこの真新しいエレクトリック・ガットギターに持ち替え、上面に付けられているイコライザーを調整しつつ準備万端。鬼怒さんのカウントから演奏開始、冒頭のテーマ合わせから喜多さんが飛び出し、パラレルに林さんが軽やかなタッチでカウンターを当てる、鬼怒さんはカッティングで、佐藤さんは蛇腹叩きで、鳥越さんはボディ裏面叩きとスラップでパーカッシヴにサポートし、冒頭から5者のサウンドが個性豊かに溶け合う様は、まさに"Alloy"[合金]サウンド! Salle Gaveau の演奏は、余りにも高度で膨大な音楽的情報量を有し、かつ多面的に意識されたサウンドあるため、どなたか一奏者のパートを任意に抜き出してそれだけピックアップして聴いてしまうと、聴き手が落とし穴に嵌り込んで大きな誤解を生む一因となりがちで、その点は気をつけなければいけないが、その様が最も分かり易く提示されているこの曲の演奏を聴いていただくのが理解の助けになると思われる、だからこそのタイトル曲であり、アルバムの冒頭を飾っている訳で、鬼怒さんの深遠かつ精緻なる配慮と音楽的伏線の巧みさには改めて驚愕せざるを得ない。

8曲目は「Pointed Red」、元々は 2004年 1/29 に書かれたことから 1/29 Tango と仮タイトルがついていたプログレ色の強い超絶技巧曲、鬼怒さんが Play Post Tango and More( Salle Gaveau の当時の名称)に持ってらした当初は、トンでもなく演奏が難しい超難曲を書かれたと思っていたのですが、その後の新曲も尽く難曲尽くしや、初演から見事に合わせてらしたこの超絶技巧集団の演奏に、何度かのアレンジ換えを経て数多く触れ(一度たりとも同じ印象は無いですが)、当たり前のように聴いてしまっていましたが、高速ユニゾンと対位フレージングが、キメとして交錯しまくるトンでもない曲であり、演奏で、改めて凄い曲だと実感させていただく至高の演奏。

9曲目は「Arcos」、鳥越さんのベースソロから導入。ハーモニクスの多彩な使い方が絶品で、空間を満たすサウンドの余りの美しさに思わず魅入られてしまいます。その後、全員が見事なまでにサウンドをまとめ上げるのですが。この曲は、川嶋さんと鬼怒さんとのデュオ・アルバムに提供した曲で Salle Gaveau 的には旧タイトル「ワルツ」として演奏されていました。この正式タイトル決定の経緯としては、川嶋さんとのデュオ・ライヴでのお客さんが、南スペインのアンダルシア地方にある町全体がスペインの重要文化財にしてされている白く美しい町 Arcos de ra Frontera をイメージさせると言ったことから決まった曲で、これこの 写真を眺めるにつけ、本当にピッタリなタイトルだと思いますね。喜多さんも自らのライヴでも一時期良く取り上げていた鬼怒さんの近年のオリジナル曲の中でも一際抒情的な泣きの傑作曲、この曲の演奏における喜多さんの間奏部のソロとメインテーマの変奏は、狂わしい程の情感が篭った演奏で、その聴く者の身体を貫き、直接心を激しく揺さ振る魂のフレージングが私を捉えて放してくれません。

10曲目本編最後を飾るのは、この位置が定位置となりつつある「Crater」、King Crimson とタンゴの融合、宇宙とタンゴの融合を思わせる鬼怒さんのこの大曲、しっかり全員のソロ回しも取り入れて、至極、究極の約14分間の演奏、特に鬼怒さんのソロから、林さんのソロ、喜多さんのソロと繋ぐ辺りでは、鳥肌どころか息をするのも忘れ、人類が築いてきた音楽的英知の更に遥か高みにて奏でられる至高の音楽にただただ魅了されている自分がいました。見事な演奏にてライヴ本編を纏め上げます。

勿論、アンコール要請の拍手が起こるのですが、それを受け、楽屋に帰るのを止めて演奏の準備に入る鬼怒さん。曲は、Salle Gaveau の 1st に収録されているのは勿論のこと、クワトロシエントスの「4月のうた」にも収録されている林さんのオリジナル曲「Culcatta」、タンゴはどうしても暗い曲に成りがちなので、敢えて明るい曲調を意識して書かれ、そこからタイトル曲も取られたこの曲、明るく聴いていて楽しいのですが、捻りが聴きまくっていて様々な角度で楽しめる素晴らしい曲です。鬼怒さんは勿論気合入りまくり、その上、喜多さんと林さんの仕掛けの凄まじさには曲調の明るさもあって最早笑うしかない状態、凄まじい演奏でした。


この素晴らしいライヴに立ち会うことが出来て本当に良かったです、限りない感謝を全ての関係者に深く捧げたいと思います。


そして、次はいよいよフランス!!世界よ暫し待て、日本が生んだ世界の Salle Gaveau が、間もなくヨーロッパ、フランスはパリ& RIO 2007 に上陸する、集え、そして活目して見よ、日本の、いや人類の生んだ奇跡のバンド、Salle Gaveau のライヴを!



n.p. Salle Gaveau「Alloy