12/20(水) 裏ヴァイオリンサミット@大泉学園 in F

12/20(水) 裏ヴァイオリンサミット@大泉学園 in F に行って来ました。先ずはセットから、

1st Set:
01. ブラームス:ヴァイオリンソナタ第1番「雨の歌」ト長調 Op.78 ( By Johannes Brahms、会田 vn & 徳永 pf duo、約26分)

約30分

約20分休憩

2nd Set:
02. ラヴェル:ヴァイオリンソナタ ト長調 ( By Maurice Ravel、喜多 vn & 千野 pf duo、約19分)
03. The Snowman ( By Howard Blake、喜多 vn & 千野 pf duo、約3分)
04. ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第5番「春」ヘ長調 Op.24 ( By Ludwig van Beethoven、太田 vn & 渡部 pf duo、約27分)

約58分

Member:
翠川敬基(producer)
太田惠資(vn)
喜多直毅(vn)
会田桃子(vn)
千野秀一(pf)
徳永洋明(pf)
渡部優美(pf)


冒頭は翠川さんの挨拶から「太田君と話していて、スプリングソナタの譜面を持っていると分かったことから始まったこの企画ですが、素晴らしいもの、演奏する価値のあるものだったら、今昔に拘らずにドンドンやればいいんだ。我々ミュージシャンはそういったチャレンジを常に続けるべきだと思うし、このような企画にこれだけ沢山のお客さんが集まってくれたことを嬉しく思います。私も楽しみです、是非今日は楽しんでいって下さい。」

まず、トップバッターは会田桃子さん&徳永洋明さん、前回(09/12のクラシック化計画@大泉学園 in F)のブラームス:ヴァイオリンソナタ第3番に続いて今回は第1番「雨の歌」、前回は酸素缶を使用する程の気合の入りようで臨んだこの素晴らしきデュオ、今回も酸素缶こそ無かったですが、その気合は十二分に客席まで伝わってきます。張り詰める空気の中、会田さんのヴァイオリンにより厳かに演奏スタート、やはり良い曲ですね、ブラームスの重々しい楽想が、御二人の緊張感溢れる演奏で美しく奏でられていきます。しっかりと最後まで緊張感を維持しつつ、大きなミス無く完奏されてました、御二人の色が楽想と相まって、とてもよく現れた御二人ならではの演奏に仕上がっていた印象です、堪能させていただきました。

ここで、1st Set を区切り、約20分間の休憩に入ります。

2nd Set の幕開けにして2番手は、喜多直毅さん&千野秀一さんというトーキョー・ミュージック・シーンきっての一見破壊者とも見える程のエキセントリックな至高の創造的デュオ、この御二人が進む先には常に刺激的な新しい音楽世界が拓けています。そんな御二人が挑戦するのは、ラヴェルのヴァイオリンソナタ、そう '92年のフランス映画「愛を弾く女」でも使われ、人気の高い有名な曲ながら、その単純に聴き手には余り理解されないレベルで余りにも難しい、というかリスクが大きい楽曲だということが大きく作用しているものと思われますが、割と有名どころが余り録音していない悲しい運命を背負ったこの名曲、このデュオで演奏を行うというのは、嬉しい限り。五嶋みどりさんのこの曲の解説に書かれているように、”ヴァイオリニストの技量が限界まで試されるような楽章”を第3楽章に含むこの曲を、その難しさと意義を知り尽くしている喜多さんが敢えてこの曲を選んだところに、喜多さんの粋なチャレンジ精神と、喜多さんの演奏家としての充実度を推して図るべきでしょうね。

果たして演奏は凄まじいものでした。特に喜多さんの演奏は神懸り的に素晴らしかったですね、完全のこの超絶的な難曲を自分のものにしていた気がしますし、管弦楽の魔術師たるラヴェルが、新しい音楽を捜し求めて辿り着きかけたその先の音楽の扉が、この稀代の天才ヴァイオリニスト、喜多直毅を得て初めて開かれた印象を受けました。勿論、千野さんのサポートも素晴らしく、このデュオ以外ではあり得ない演奏であり、音楽でした。ひょっとしたら、私達は歴史的音楽の場に立ち会ってしまったのかも知れません。

演奏後に喜多さんから「今回はそれぞれ30分の持ち時間を持っているのに、ちょっと短かったので、もう1曲演奏します。アニメの曲で使われた曲で、とても冬を感じさせる曲です。Howard Blake の Snowman で使われた曲で...」、に千野さんからは「えっ、演奏するの?リハでやってないじゃない!」とのこと、喜多さん、パートナである千野さんにまでサプライズを仕掛けるそんな貴方は最高です!!結局、しっかり冬を感じさせる素晴らしい演奏が奏でられました。

あらあら、いくら海千山千の太田さんとは言え、この後の演奏はいくらなんでも辛過ぎないだろうかと心配しましたが、行き成りベートーヴェンの「運命」のテーマを弾き出し「さあ、運命の時間です!演奏後に待っているのは葬送行進曲となるか、はたまた第九の歓喜の歌が待っているか...」と始めてしまい、パートナーの渡部さんが不意を衝かれて、コケていらっしゃいました。事ここに至っての太田さんのマイペースには、ある意味徹底したプロ意識の現われを感じましたね。ただ、演奏が始まってしまうと、流石に太田さんの緊張具合が様々な形で現れます。意図しないビブラートが掛かってしまったり、フレーズがよたってしまったり、微妙に音程を外してしまったり、いつもの太田さんなら、またフェイクを仕掛けてどうだといわんばかりの表情をされるところが「あぁ、しまった」的残念がる表情がついつい出てしまう、しかし、全体としては破綻する事無く見事に完奏、全く悪い印象はなく、実はこれこそが譜面に現れてこなかったベートーヴェンの本来意図した楽想かも?と思わせる太田さんならではの演奏に仕上がっていた気がしますし、それは終演後の割れんばかりの観客の拍手が全て物語っていました。渡部さんも見事なサポート、素晴らしい演奏でした。

最後にプロデューサーである翠川さんから「素晴らしかった、私はこういう常にチャレンジをし続ける人を信用します。それぞれの色がよく出ていて、私自身とても楽しめました。皆さんも楽しめましたか?」の言葉に再び割れんばかりの拍手で観客の皆さんが応える、素晴らしかったです!心より堪能させていただきました。

本企画を立てて下さった翠川さん、in F マスター&厨房担当ユカさん、賛同し演奏して下さった太田さん、喜多さん、会田さん、サポートして下さった千野さん、徳永さん、渡部さん、そしてこの場を共有して下さった観客の皆さん全てに限りない感謝を捧げます、ありがとうございました。



n.p. Sarah Chang & Lars Vogt「Frank. Saint-Saens. Ravel Sonatas For Violin & Piano」