01/17(火) 黒田・小森デュオ@大泉学園 in F

01/17(火) 黒田・小森デュオ@大泉学園 in F に行って来ました。セットは以下、

1st Set:
01. 森の精の歌 (小森慶子作曲、小森 cl、約12分)
02. おきな草 (黒田京子作曲、小森 ss->bcl、約18分)
03. おさんぽ - Go for a walk - (黒田京子作曲、小森 bcl、約6分)
04. In Harmonicity (黒田京子作曲、小森 ss、約9分)
05. 幸福の花園 (小森慶子作曲、小森 ss )
06. 〜 柏の木、大王の歌 (宮沢賢治・詞/黒田京子・曲、小森 ss、約14分)

約67分

2nd Set:
07. Castelo Delmond (小森慶子作曲、小森 cl、黒田 acc->pf、約10分)
08. ちょっとBEBOP (黒田京子作曲、小森 ss->bcl、約12分)
09. Aneesh Dance (新井田耕造/小森慶子作曲、小森 ss、約8分)
10. 天国のきざはし[階] (黒田京子/小森慶子作曲、小森 ss、約17分)

約59分

黒田・小森デュオ:
黒田京子(pf,acc,etc.)
小森慶子(ss,cl,bcl)


幸せの形はここにありました。人は音楽によってここまで幸せになれるのだなと言うことを深く実感したライヴでした。そんな素晴らしい音楽を書いて、演奏して下さった黒田京子さん、小森慶子さん、この機会を作って下さった in F マスター、今日この場にいらっしゃってこの音楽を共有して下さった観客の皆さん、そして何らかの事情があり来ることは出来なかったけど、心に本日のライヴを留めて下さった全ての人たちに深く心より感謝申し上げます。

今夜のライヴで演奏された曲は、全てこの御二人のオリジナル曲です。未だ嘗て存在しない、これからも本当の意味で具現化できるかどうかも分からない、音による夢と幻の物語の序章が提示されました。何より嬉しいのは、このライヴでこの音による夢と幻の物語が”まだ”完成していないことでした。夢を超えた夢の音世界はここで提示され、そしてつづきがあるのです。この御二人のデュオ、間違いなく続けて下さるはずですので、興味と機会をお持ちの方は是非現場に足を運んで”この”物語のつづきを共に楽しみましょう。

1st Set は、なぜか”森”に関係する曲が多い”森”パートとなり、1曲目は、小森さんが発見の会「幸福のロン−シアワセのあさって−」の為に書き下ろした曲で、まさに”森”パートの冒頭に相応しい「森の精の歌」、「幸福のロン」では、柏の大王の出現前に主人公のチルチルとミチルにより、メーテルリンクの詩を用いて歌われた印象的な曲で、小森さんの絶品のクラリネットによって紡がれる哀愁のメロディーは、黒田さんのリリカルな伴奏を受けて、唯只管に美しく慈愛に満ちて輝いていました。2曲目は黒田さんがトランクシアターの為に書き下ろした曲で、やはり名曲中の名曲、いつもの構成とは違った形にアレンジされており、黒田さんの流麗華美なパッセージを前半ソプラノでパステルカラーの色合いを加えて軽やかに彩り、後半バスクラで質感を伴なったセピアカラーで壮麗に彩る小森さんのサポートもあって、その余りに圧倒的な美しさに見とれ、聴き惚れてしまいました。演奏後には黒田さんから「おきな草の名前の由来はその産毛のような綿毛を翁の髭に例えてなのです」とのコメントもありました。

3曲目は、黒田京子トリオにて既にお披露目されている黒田さんのオリジナル「おさんぽ」、黒田さんのスタッカートの効いたフレージングが散歩の湧き立つ気持ちを、小森さんのバスクラが結果現れる足取りを象徴するかのよう、楽しくワクワクしながら歩みを進め、楽しくてスキップしたり、ちょっと不安が過っておどおどした歩となったり、様々に色合いを変えながら紡がれていく音の物語、楽しいですね。そんな「おさんぽ」の末に辿り着いたのは、森の奥の神秘の世界、4曲目は「In Harmonicity」です。黒田さんのオリジナルで、昨年8月の黒田京子トリオ@ in F にて一度だけ演奏されています。小森さんは 「前半の森と後半の森を繋ぐ Intermission になるかな、いや一番重い曲だし、無理だよね」と MC にて仰ってましたが、重いと同時に神秘性をも内包する深い曲でもあり、海千山千の黒田京子トリオでさえ成立が難しかった難曲中の難曲、御二人の演奏にては、調波性の中に存在する一筋の光が見えたような気がします。

そして5曲目「秘密の花園」と6曲目「柏の木、大王の歌」はメドレーで演奏されるとのこと。小森さんのオリジナル曲「秘密の花園」は発見の会「幸福のロン」にても非常に印象的に象徴的に使われた曲で、4分にて単調ながら宇宙空間や夜空の星々を感じさせる印象的かつ空間的な黒田さんのピアノが背景と空間を作り出し、そこに小森さんが柔らかいフレージングで印象的なメロディーを奏でていく、甘く、切なく、そして懐かしい”秘密の花園”がふっと現れ、そして静かにフェイドアウトしてゆく、そこから力強いピアノフレーズが印象的に立ち上がってきて、そのまま「柏の木、大王の歌」へ、黒田さんのオリジナル曲「柏の木、大王の歌」は、やはりトランクシアターの為に黒田さんが書き下ろされた曲で、「ダーダーダーダー、ダースコダーダー」にて歌われる(本日は観客含めた歌はなし)素朴で力強いメインメロを御二人でユニゾンを取ったりしながら前半力強く展開して行き、そして印象的にイメージ、場面がフェイドアウトしてゆくように、リフレインの中で小森さんがメインメロをディレイさせたり、遠くから聞こえて来るように宮沢賢治の詩を黒田さんが差し込んだりしながら前半の演奏を閉じる、この演出効果素晴らしいかったですね、映像(お芝居)を感じさせる見事な演奏が堪りません。


後半二部の幕開けは、小森さんのオリジナル曲「Castelo Delmond」となります、この曲は先日のスズキイチロウ・小森慶子デュオで初御披露目された新曲で、イタリアをイメージして書かれたとのことですが、本日はより具体的に前回未定だったタイトルも正式決定した形での演奏となりました。イタリアの中でも小森さんが架空のお城、Castelo Delmond を生み出し、そこを舞台に紡がれる音の物語がこの「Castelo Delmond」という形となっているようです。伺うと成る程の設定に舌を巻きます。ここでも小森さんの絶品のクラリネットが冴え渡り、淡いセピア色を帯びたような哀愁の小森さんのクラによるメインメロ、それと色合いを合わせるように黒田さんが赤のアコーディオンを持ち、リリカルな色合いを更に引き立てるかのような伴奏と小森さんのクラと溶け合うかのようなユニゾンをみせ、サウンド全体としてまるで映像が浮かび上がるかのような映像美を有する見事なまでの音の物語が美しく奏でられます。後半には黒田さんがピアノに変わりつつ、更なる物語の展開を演出し、素晴らしい名曲、名演奏の誕生と相成ったわけです。

2部2曲目は、既に黒田京子トリオ、ソロにても演奏されている素晴らしいオリジナル曲「ちょっとBEBOP」です。これ、非常に楽しい曲で、バップ系の数々の名曲がコラージュされるように、ふっと顔を出しては隠れみたいな形で進行して行きます。黒田さんのフレージング、小森さんのフレージング共にバップ系の楽想に合わせて絶妙に奏でられ、2人でありながら、時折ビッグバンドかと思わせる程の音の厚みを見せたりしつつバラエティ豊かに曲を彩っていきます。間奏の小森さんのバスクラによるソロがまた素晴らしく、こんなバスクラ見たいこと無い!まるでトランペット?と思える程の大迫力のソロを展開されていました。それに続いた黒田さんも負けじとダイナミックなフレージングで素晴らしい演奏に昇華されていました。

2部3曲目は、先日のイチロウさんとのデュオでも取り上げて下さった小森さんのオリジナルによる名曲「Aneesh Dance」、ご存知の方も多いと思いますが、この曲は元々小森さんが新井田耕造ユニットに参加されてらした際に、新井田さんが Asian Fantasy Tour で一緒になった Aneesh Pradhan から教えてもらった”テカ”にメロディをつけて欲しいと小森さんに依頼して出来た曲で、インド音楽の初歩をご存知の方であればお分かりのように”テカ”は単なるリズムパターンにしか過ぎず、新井田さんが”リズムパターンを指定して作曲を依頼した”小森さんのオリジナル曲というのが実質的なお話しです。インドと言うよりはトルコの北方のジプシー系の色合いを感じさせる曲で、ここにも小森さんの素晴らしい作曲センスが活かされており、かつこのデュオによる演奏はエキゾチックな雰囲気も醸し出して妖艶なる素晴らしい演奏となっていました。新井田構造ユニットを脱退したからと言って、それを気にしてこんな素晴らしい曲を演奏しないのは勿体無さ過ぎですので、これからもどんどん演奏して欲しいところです。

そして、本日の有終の美を飾る2部4曲目は、黒田さんと小森さんの御二人による合作であり、凄まじいまでの大曲「天国のきざはし[階]」です。御二人が、それぞれにメロディアスなパッセージを奏でながらゆるやかに進行、このそれぞれのメロがレイヤーのように多層的に音像を形作り、究極的な音像美の構築を試みる、しかも場面展開も切り替わると言う多次元的構造曲、しかしこの曲、本当に人間が演奏できるものなの?と言うほど難しそうな構成で、それなのに全く難解ではなく、一聴してその魅力に心奪われると言う、まさにこの耽美主義的デュオにピッタリの傑作曲なのですが、やはりどうしても細かいところでは綻びが見えてしまいます。特にソプラノサックスというかなりの表現的制限を有する楽器を使用しての小森さんにとっては、途轍もないチャレンジに、素人目(耳)ながら感じられてしまいますが、何とか最後まで演奏をキープして下さいました。この曲が、ご本人達の満足するレベルまで完成した時には一体どうなってしまうのか今のところは全く想像が尽きません。

本当に心が満たされた素晴らしい楽曲、素晴らしい演奏でした。しかし、今回はこのデュオの目指す究極的な音楽の序章、提示に過ぎません。今後益々高みを極めるであろうこのデュオの「次回」をお楽しみに!是非、機会と興味をお持ちの方は御二人のページ内のスケジュールをチェックして、ライヴに足を運んで下さいませ。


n.p. 小森さんからいただいたモチーフ集 CD-R