09/16(日) 壷井彰久ソロ@大泉学園 in ”F”

09/16(日) 壷井彰久ソロ@大泉学園 in "F" に行って来ました。セットは以下、

1st Set:
01. 即興1 (約10分)
02. Gadget (壷井彰久作曲、約8分)
03. First Greeting (壷井彰久作曲、約8分)
04. Lamento Di Tristano (14世紀作者不詳、約8分)

約51分

2nd Set:
in "F" 店主佐藤浩秋さんと壷井彰久さんの対談 (壷井さん in "F" 出演10周年の歩み、約15分)
05. 即興2 (約8分)
06. 006 (壷井彰久作曲、約9分)
07. MZN3八木美知依作曲、約7分)
08. Cooley's Reel ( Irish Trad、約8分)

Encore:
09. Ground after the Scotch Humour ( By Nicola Matteis、約7分)

約69分

壷井彰久(vn)


壷井彰久さんのソロは今回で4回目、壷井さん冒頭に曰く「4回目になります。半年に1回位のペースで行っていまして、毎回佐藤さんからメールで召集がかかるのですが、その度に死刑宣告かと思って、メールを消しそうになります。」とかなりのプレッシャーを持ってオファーを受けていらっしゃる壷井さん、それもその筈、様々に趣向や工夫が凝らされた選曲、回を増す毎に増えていく機材の山(本日もこの日の為にループマシンを新たに購入して臨んでいらっしゃいました)、仕込みの数々...、色々な意味でライヴ当たりの "投資" が半端ではなく高い、かつそれが音楽の形でキチンと現れてくる素晴らしいライヴ、それがプログレ界の貴公子、壷井彰久さんのソロライヴなのです。足を運ばれるお客さんも皆さんそれをよく分かっていらっしゃるようで、毎度の満員御礼です。

先ずライヴの幕を開ける冒頭は即興から、神々しくも美しく厳かなトーンで神秘の世界のベールを開くようにスタート、壷井さんの即興は常に高い構築性を持っており、全ての構成音とテーマ提示、展開、再提示が相互に強く結びつき、高い意味性を備えて演奏されている印象で、聴いているその瞬間も素晴らしい感動を与えてくださいますが、演奏後の余韻がまた素晴らしい。全てが明らかにされた後、心の中で、その物語、メッセージ、芸術性が余韻となって広がり、後から起こる漣の如き感動を与えて下さいます。今回の即興からは、”神居の一日”といった印象を受けました。

続いて演奏されるのは「Gadget」、ERA 史上最難曲とも言えるこの曲をソロで、またご冗談をといった印象で本気にしていなかったのですが、本当に演奏開始してしまいました。今回のソロの為に新規に購入されたループマシンが早速大活躍、その場でコピーしたループを複数蓄積可能で、選択して流すことができる優れもの、とは言っても、当たり前ですが緩やかな曲のバッキングループを時折切り替えるってことを意図したものであって、単体ですら超絶的なバッキングフレーズを、このような高速で、複雑に切り替えることを意図しては作られていない筈なのに、複雑な3パターンのバッキングループを、その上でトーンコントロールされ、展開されたテーマ演奏、かつソロもワウを含むトーンコントロールしながら取っている中で見事に切り替えて見事な音像を描く様には、驚きを通り越して半ば呆れてしまいます。美しく高貴な様でヴァイオリンを奏でる上半身、同時に反復横跳びのように目まぐるしく跳躍と踏み変えを繰り返す下半身、これが美しい音像の中、同時に起こっているのです。今思い返しても目の前ながら不思議な光景でした。

続いて「First Greeting」、最近の壷井さんのライヴに欠かせないこの美しくリリカルな名曲も、巧みなバッキングループで彩を加えながらの見事な演奏、もの哀しく、ただただ美しい演奏でした。

そして第一部最後は「Lamento Di Tristano」、昔 AUSIA で演奏していたそうで、今回の為にいろいろと楽譜を引っ張り出している中で発見し、本日持っていらっしゃったようです。14世紀の作曲者不詳の曲、ルネッサンス初期または以前の曲ですので、やはり旋律はシンプルそのもの、グレゴリオ聖歌や世俗音楽の背景も感じさせつつ、素朴ながらも力強い生命力を感じさせてくれる楽曲を壷井さんがものの見事に現代風に仕上げます、演奏前に仰った「女子十二楽坊のように演奏します」はまさに言いえて妙。


そして、第二部が始まるかと思いきや、店主特権発動、in "F" 店主佐藤さんより特別企画”壷井彰久 in "F" 出演10周年を振り返る”対談です。壷井さんが、保谷時代の in "F" に出演するに至ったある事件、"1996年12月27日の悲劇的拉致事件@吉祥寺 Shilver Elephant" から始まり、次々と壷井さんご本人のリアルな心境を交えつつ(「思い出したくもない!」の弁もあり)歴史を紐解くひと時、貴重であり、シーンの一端を切り取ったかのようなリアリティ溢れる対談でした。

そして本編、先ずは即興から、今度は先ほどの対談が尾を引いた為か、少々暗黒的な演奏、これまた見事でしたが、プログレの貴公子の暗黒的一面が垣間見えるこれまた素晴らしい演奏でした。

続いてこれまた名曲の誉れ高い「006」、ERA 初期を思い起こすように演奏前に一頻り”思い出”が語られた後の演奏は、正に心に残る郷愁を感じさせて下さるリリカルな演奏、これも素晴らしく良かったですね。

続いては、先日めでたく初共演され、その際に本日演奏する許可をいただいたという八木美知依さんのスタイリッシュで情熱的な楽曲「MZN3」、「お琴の奏者がこんなカッコいい曲を書くなんて驚きですよね」という壷井さんのお言葉に象徴される、切れの良い凄まじくカッコよい演奏、ヒーロー見参!的雰囲気も醸し出しつつ、壷井さんのテーマ曲としてもイケるのではと言った印象、素晴らしい演奏でした。

本編最後は、突然演奏に入り、アブストラクトな前奏から行き成りアイリッシュな展開へ、違っているかも知れませんが、恐らくアイリッシュ・リールセットの形でよく演奏される Cooley's Reel ですね。壷井さんの天性のボーインググルーヴで、会場を、空間内の空気を、お客さんの気持ちを、巻き込みつつどんどん大きくなって行くグルーヴの輪、見事な大団円にて本編幕。

当然、万雷のアンコール要請の拍手、そして奏でられた曲は Nicola Matteis の「Ground after the Scotch Humour」、再び全てを包み込んで昇華されて行く見事な音楽、艶やかで美しい演奏、これにて本日のソロライヴの幕を閉じます。


ソロライヴで、全く一人を感じさせない見事なオーケストレーションと精緻なアンサンブル、それでいて純粋な壷井彰久色一色、ここまで充実のライヴを堪能させていただけるとは、毎度の事ながら大きな驚きです。また、半年後、やって来るであろう第五回目の壷井彰久ソロライヴ!楽しみに待たせていただきます。



n.p. KBB「Proof of Concept」