07/28(金) Salle Gaveau@渋谷公園通りクラシックス

07/28(金) Salle Gaveau@渋谷公園通りクラシックス に行ってきました、セットは以下、

1st Set:
01. Alloy鬼怒無月作曲、鬼怒 ag、約9分)
02. Parade (鬼怒無月作曲、鬼怒 eg、約7分)
03. Null Set (鬼怒無月作曲、仮タイトル:可愛い曲、鬼怒 eg、約7分)
04. Minimal Tango (鬼怒無月作曲、鬼怒 eg、約8分)

約41分

2nd Set:
05. 7 Steps to Post Tango (佐藤芳明作曲、鬼怒 eg、約13分)
06. 1/29 Tango 新 (鬼怒無月作曲、仮タイトル、鬼怒 eg、約4分)
07. Arcos (鬼怒無月作曲、仮タイトル:ワルツ、鬼怒 ag、約10分)
08. Three Colors of the Sky (鬼怒無月作曲、鬼怒 ag、約10分)
09. Crater (鬼怒無月作曲、鬼怒 eg、約15分)

Encore:
10. Calcutta (林正樹作曲、鬼怒 eg、約6分)
11. (鬼怒無月作曲、仮タイトル:可愛い曲、鬼怒 eg、約6分)

約80分

Salle Gaveau Member:
鬼怒無月(ag,eg) (ag はガットギター:ラミレス、eg は Les Paul モデル:Buccus)
喜多直毅(vn)
佐藤芳明(acc)
鳥越啓介(cb)
林正樹(pf)


3/16の@GINZ以来4ヶ月ぶりの Salle Gaveau です。現在のシーンで飛ぶ鳥を落とす勢いでその天才ぶりを発揮している林正樹さん加入後、益々その至高の音楽性に磨きをかける鬼怒無月さん率いる史上最強 Progressive Tango Quintet、Salle Gaveau。一般的には陳腐化され、その本来の意味が希薄となりつつある”天才”という形容は、正しい人に使用してこそ、その本来言葉が持っていた意味、価値を取り戻すと実感できるのが、林正樹さんであり、同じく Salle Gaveau で中核を担っている喜多直毅さんであると個人的には思っています。この御二人が、同じバンド内に在籍して下さっていること自体、私的には奇跡と思えるのです。

Salle Gaveau は、元々鬼怒無月さんが御本人の中の第3次タンゴブーム(小松良太さんとのタンギスツは第2次タンゴブームに当たるとの過去の MC あり)の盛り上がりに伴なって起したユニットで、確か2003年の春先位から活動を開始していたように記憶しています。当時は、まだシーンにその名を広めていなかった若き才能、喜多直毅さん、佐藤芳明さん、鳥越啓介さんをメンバーとして、Tango Unit、Post Tango、Play Post Tango & More 等の名称を使いつつ活動を続けてまして、活動初期は鬼怒さんのこのユニット向けのオリジナル曲がまだ少ないこともあって、Miles Davis や Steve Kuhn の曲等ジャズのスタンダードや喜多さんの「ナオキチカルシラマ」「板橋区」等のオリジナル、鳥越さんの「La Danza De La Pasion」(チョウスケオリジナル No.3)等もそのレパートリーとして先鋭的な演奏を繰り広げていまして、昨年の6月に名称を正式に Salle Gaveau とし、そして9月にゲストとして林正樹さんを呼び、リハで鬼怒さんが口説いて正式メンバーとするに至り、史上最強 Progressive Tango Quintet、Salle Gaveau の誕生と相成った訳です。既にレコーディング、ミックスダウンも終了しているそうですので、1st Album の発売が待たれるところです。

1曲目は Salle Gaveau のサウンドを象徴するような「Alloy」、冒頭のテーマ合わせから、喜多さん、鬼怒さん、林さんが絶妙の絡みを魅せ、佐藤さんと鳥越さんがパーカッシヴにサポートし、5つの個性が溶け合って1つのバンドサウンドを生み出す様子が分かり易く提示されます。ライヴの導入曲に相応しい良曲で、勿論本日も第一部の冒頭に持ってきます。

2曲目は「Parade」、この曲、個人的に非常に気に入ってまして、Salle Gaveau のテーマ曲と言っても過言ではないと思ってます。しなやかで力強いいつもの鳥越さんのランニングベースにて道の大枠を形取り、林さんの力強いタッチの鮮烈なフレーズが音像の立体感を鮮やかに生み出し、佐藤さんの分散フレージング伴奏、喜多さんの微分音パッセージがエキセントリックに時空の歪みをも音楽的に表現します、そんな鮮やかに彩られた音によるストリートを、鬼怒さんがレスポールを用いてのメインメロで行進をするように進んで行く、そんな曲相が堪らないですね。特に本日は、間奏部の喜多さんのソロ、負けじと続く林さんのソロの2トップによる波状攻撃が狂おしいばかりに素晴らしい切れ味で、聴いていて、このままだと精神を破壊されてしまうと感じる程の狂気が内包されていたように感じました、本当にあと1分長く演奏されていたら廃人になっていたのではと考えて、今でもそれを思うと身震いします。改めてこの曲を聴くとふと思うのですが、Prince のその名も「Parade」の冒頭を飾る「Christopher Tracy's Parade」のイメージと大きく重なるのです、Prince のそれが、Funk Music の新たな境地を切り開いたように、Salle Gaveau の「Parade」は、Tango の、その先に続く Post Tango の有るべき新たな境地を切り開いているように強く感じられます。

3曲目は「Null Set」、喜多さんの 3rd Solo「VIOHAZARD」に収録されている鬼怒さんのオリジナル曲で、仮タイトルは、その美しく可愛らしいテーマを有することからその名も「可愛い曲」と呼ばれてましたが、喜多さんのソロ作品のプロデューサーにして大学の数学教授、音楽評論家とマルチに大活躍されている徳永さんの命名によって Null Set(空集合)となっている訳ですが、本日の演奏は、やはり喜多さんのフレージングと林さんのタッチが素晴らしく冴えていたように思います。最後のパートで、喜多さん林さんの素晴らしい展開を鬼怒さんが締めてエンディングの筈なのですが、鬼怒さんが折角の素晴らしい演奏を最後にぶち壊します。そんなことは今まで体験したことが無かったのでとても驚いたのですが、その後に鬼怒さんの口から「演奏途中に指攣っちゃいました」とのことで指が全く持ってコントロール出来ない事態に陥ってました。急遽喜多さんが MC(ちなみに、内容は先日行われたヤドランカ、鬼怒さん、坂田さん、喜多さんによるヴォスニアツアーのエピソードでした)にて場繋ぎをしますが、かなりの重症のようで、指のストレッチ等を行っても全く元に戻る様子が無く、このままライヴが中止になるのではと心配しましたが、何とか弾くことが出来るレベルまで回復したようでホッとしました。

4曲目は「Minimal Tango」、ミニマルとタンゴとの融合を試みたこの曲、やはり完全とは言えないながら、鬼怒さんも何とか弾ききり、次に第一部の最後に予定していた佐藤さんの大曲「7 Steps to Post Tango」は、鬼怒さんの指の回復をしっかり行う為に休憩を挟んで、第二部の頭に持って来ることにして第一部を閉じます。

第二部は予告通り「7 Steps to Post Tango」から、佐藤芳明さん入魂の大作、タイトルとの絡みもあって7拍子であることが、取り沙汰されますが、実際聴くと変拍子であることは聴き手には意識させないような作りになっており、タンゴのエッセンスをベースとしながら洗練に洗練を重ね、物悲しさを纏って奏でられるメインメロの美しさと曲構成の練り方が素晴らしい楽曲で、当然の事ながら超絶技巧曲なのですが、聴く者にはその楽曲の美しさのみに魅了される佐藤さんの数あるオリジナル曲の中でも白眉の曲だと個人的には認識しています。この素晴らしい曲が、この5人の至高の演奏によって織り成される時、聴き手としては、その音像の美しさに平伏すのみです。どうやら、鬼怒さんの指の回復もしっかり出来たようで何よりでした。第二部は、指に負担をかけ過ぎ無い様に MC を長めに取って曲間に休みを入れるとのことです。

2曲目には本来1曲目を予定していたと思われる「1/29 Tango 新」、相変わらず曲のタイトルがついていませんが、鬼怒さん御本人もこの曲の紹介の際には「そのうちしっかりとしたタイトル付けます」と毎度恐縮しきりの様子です。ちなみに、この曲が書かれた日 1/29 は、2004年の1月29日です、作曲後2年半演奏し続けながら、未だに正式タイトルがつかない、その大らかさがある意味とても鬼怒さんらしいですね。曲は勿論、高速ユニゾンと対位フレージングが、キメとして交錯しまくる超絶技巧曲、本日は、鬼怒さんの指の負担を減らす為か、ソロ等を挟まず割と短めに纏め上げますが、結果トンでもない大嵐が一瞬にして駆け抜けていったかのような演奏後の静寂感が心地良かったです。

3曲目は「Arcos」、川嶋さんの最新アルバムに提供した曲で Salle Gaveau 的には「ワルツ」、川嶋さんとのデュオライヴでのお客さんが、南スペインのアンダルシア地方にある町全体がスペインの重要文化財にしてされている白く美しい町 Arcos de ra Frontera をイメージさせると言ったことから正式タイトルが決まった曲で、これこの 写真を眺めるにつけ、本当にピッタリなタイトルだと思いますね。喜多さんも自らのライヴでも良く取り上げる鬼怒さんの近年のオリジナル曲の中でも一際抒情的な泣きの傑作曲、この曲の演奏における喜多さんの間奏部のソロとメインテーマの変奏は、狂わしい程の情感が篭った演奏で、その聴く者の身体を貫き、直接心を激しく揺さ振る魂のフレージングが私を捉えて放してくれません。本日も素晴らしい演奏でした。

4曲目は驚きの「Three Colors of the Sky」、先頃発表された鬼怒・壷井デュオ ERA の 3rd Alubum のタイトル曲ですが、Salle Gaveau での演奏は初めて、演奏後に鬼怒さんが「タンゴではなく、ケルト的なメロディーにアンデス的なリズムの曲だけどこのバンドで演奏したら、よいのではと思ってやってみました」と仰いましたが、確かに素晴らしく映えてまして、今後もレパートリーとして欲しいところです。

5曲目本編最後を飾るのは「Crater」、King Crimson とタンゴの融合、宇宙とタンゴの融合を思わせる鬼怒さんのこの大曲、しっかり全員のソロ回しも取り入れて、至極、究極の約15分間の演奏、特に鬼怒さんのソロから、林さんのソロ、喜多さんのソロと繋ぐ辺りでは、鳥肌どころか息をするのも忘れ、人類が築いてきた音楽的英知の更に遥か高みにて奏でられる至高の音楽にただただ魅了されている自分がいました。見事な演奏にてライヴ本編を纏め上げます。

勿論、アンコール要請の拍手が起こるのですが、それを受けるまでも無く演奏の準備に入る鬼怒さん、御本人の中では第一部でのトラブルが余程気になっているようです。曲は、クワトロシエントスの「4月のうた」に収録されている林さんのオリジナル曲「Culcatta」、タンゴはどうしても暗い曲に成りがちなので、敢えて明るい曲調を意識して書かれ、そこからタイトル曲も取られたこの曲、明るく聴いていて楽しいのですが、捻りが聴きまくっていて様々な角度で楽しめる素晴らしい曲です。鬼怒さんは、開演前も御一人(佐藤さんと2人?)でかなり気合を入れてこの曲のリハをされてまして、その熱気が開場待ちでドアの外に並んでいる際にも実感できましたが、やはり本番演奏はそれ以上、鬼怒さんは勿論気合入りまくり、その上、喜多さんと林さんの仕掛けの凄まじさには曲調の明るさもあって最早笑うしかない状態、凄まじい演奏でした。続けて鬼怒さんが「先程は不甲斐ない演奏をしてしまったので、もう一度 Null Set を演奏させて下さい」と仰って「Null Set」の再演、これはもう完璧な演奏で最後を見事に纏め上げました。この素晴らしいライヴに立ち会うことが出来て本当に良かったです、限りない感謝を全ての関係者に深く捧げたいと思います


鬼怒さんも MC にて「このバンドは中小企業の社長が集まって作ったような、皆若いのでベンチャー企業の社長が集まっているようなバンドですので、皆各自で素晴らしい活動をしています、佐藤君と鳥越君は Gong のキャラクターをバンド名にした Pot Heads で 1st Album 出してますし、喜多君は付けも付けたりその名も VIOHAZARD という 3rd Solo を出してます、林君も宴の 3rd が発売されてますし、その他 SU など素晴らしいバンドでも大活躍してます、そちらの方もそれぞれよろしくお願いします」とのことで、本当に2,3年もすれば、このバンド、活動が信じられないような、各自がリーダーバンドを率いて、それぞれのシーンを牽引するようなメンバーのみ5人で結成されている Dream Quintet、Salle Gaveau。日本の、いや世界の音楽史に大いなるページを残すであろうこのバンドのリアルタイムの活動に是非とも多くの音楽ファンに触れていただきたいところです。次回は、8/2(水)に横浜ドルフィーでライヴが行われます、私は残念ながら足を運べない(それも有って今日は外せませんでした)のですが、興味と機会をお持ちの方は、是非とも足をお運び下さいませ。


n.p. 川嶋哲郎 Meets 鬼怒無月「Resident of Earth」